「使い捨てダンジョン」の問題について
「Roguelikeの中の*band」の記事で触れたことのうち、「ランダムに生成されるダンジョン」という話題を出発点にして、すこし掘り下げて考えてみたい。
Rogueのランダムなダンジョン
Rogueでは、新たなゲームを始めるたびに違うダンジョンが生成されるという仕様になっていて、これはRoguelikeに分類されるゲームすべての最も重要な特徴だとされている。ゲームごとにダンジョンの構造が変わるのにともなって、当然モンスターの配置も変わるし、これは当然というわけではないが、アイテムの不確定名(「青い薬」とか)とアイテムの効果(「癒しの薬」とか)との結びつきも、ゲームごとに変わることになっている。
なぜこういう仕様になっていると思いますか? それはもちろん、何度でも緊張感を持って飽きずに遊べるようにするためですよね。ここには何の疑問もなく問題もないと思う。
Moria-*bandの不思議なダンジョン
Moria-Angband系のゲームが、Rogue、NetHack、Dungeon Crawlと大きく異なる点は、そしてLarn、Omega、ADOMなどのマイナーなRoguelikeに似ている点は、ゲーム中にダンジョンから出てまた入ることができる、ということだ。そしてMoria-Angband系のさらに重要な仕様は、一度ダンジョンから出て再び入ると、そのたびにダンジョンの中身がクリアされて再生成される、ということである。(実は私はMoriaをやったことはないので、Moriaについては噂レベルの又聞きにもとづいて書いている。)
なぜこうなっているのか
これは、なぜこういう仕様になっているのだろうか? 「ダンジョンに戻るたびに中がどうなっているか分からない、という緊張感を持って遊べるようにするため」というような方向性の答えは、たぶんハズレである。私が思うに、これは以下のような必要性に由来するデザインなのだ。
- Moriaや*bandは、堅実なプレイによる蓄積を要求する長丁場のゲームなので、RogueやNetHackのような「どうやっても死ぬときは死ぬ オワタ \(^o^)/」というようなノリは受け入れられるものではない。多大な労力を費やす以上、プレイヤーがミスさえしなければそれに見合った*勝利*の可能性は常に用意されている必要がある。
- アイテムを入手する機会が有限だった場合、乱数のいたずらのせいで「50階まですべての階をがんばって探索したけど、いまだに麻痺耐性も盲目耐性も埋まらないしACも紙だし攻撃も蚊」とかいう状況になってしまうかもしれない。そんなことになったらもう生き延びること自体が難しいし、そこから事態を改善することも難しい。つまり、Moriaや*bandでは決して起こってはならない「ハマリ」状態ということになってしまう。
- だから、プレイヤーキャラクターがアイテムを入手したり能力を強化したりするチャンスは、有限ではなく無限である必要がある。
- プレイヤーキャラクターに無限のチャンスを与える最も簡単な方法は、ダンジョンのランダム生成処理をダンジョンに入るたびに毎回走らせることだ。よし、そうしよう。
上記は私の単なる想像なのだが、それほど的外れでもないと思っている。
不思議なダンジョンの帰結:「使い捨てダンジョン」
私は*bandが本当に大好きなのだが、実に惜しいと思うのは、ダンジョンの存在感というか実在性が限りなく薄いことだ。たとえば「鉄獄」という名前が付いたダンジョンの入り口は、マップ上のある位置の「>」として確かに実在するのだが、その「鉄獄」に中身が存在するとはどうしても思えない。
たとえば、ある時鉄獄の75階のマップを隅から隅まで探索して、すべての敵を倒してすべてのアイテムを鑑定したとしても、あるいはその時の75階のマップが気に入らなくてすぐに帰還してしまったとしても、次に75階に帰還した時には、どうせ前回探索したのとは無関係のマップに飛ばされ、前回の探索はその後の鉄獄に一切何の影響も与えない。こんな性質は、実在するダンジョンのあり方として受け入れられるものだろうか?
ダンジョンがこのように「使い捨て」仕様であるせいで、一面では単純作業としての「スカム」が有力なプレイ戦略として台頭してしまい、他方では、その不合理さゆえに*bandのダンジョンや世界に対する思い入れが妨げられる結果になっていると私は思う。
脱線(*band世界の合理性)
この不合理という点については、たとえばBeolinelied内の小説(面白い)では、無限の枝道を持つ巨大な迷宮であるがゆえに二度と同じ場所には戻れない、という設定になっているが、やっぱりその説明には無理がありますよねえ。
アングバンドやウトゥムノ級の巨大要塞なら、確かに無限の枝道を持つかもしれない。モリアやアイゼンガルドも、まあそうなのかもしれない。でも、変愚蛮怒の「イークの洞窟」とかにも無限の枝道があるんだろうか。仮に無限の枝道があるとしても、地上から地下50フィートまで歩いて下る時ぐらいは、さすがに同じ場所に出ることだってできるだろうと思うんですが。
まあ良いや。*bandが異世界ファンタジーのゲームである以上、こういうゲーム世界内の合理性や雰囲気の一貫性というのはそれなりに大切だと私は思うが、仮にこれを気にしないとしても、ダンジョンへ入るたびにマップが自動生成されるせいで、スカムが有力な戦略になってしまっていることは間違いないだろう。
TOMEの不思議じゃないダンジョン
おそらく上で述べたような問題意識からだろう(ちゃんと調べたわけではないので、全然違う理由からかもしれないが)、TOMEの最近のバージョンでは、permanent_levels(固定のダンジョンを生成する)というオプションが「実験的」という扱いながらもついている。このオプションをONにすると、ダンジョンに入るたびにダンジョンの地形が再生成されるということはなくなる。
しかし上で指摘したように、ダンジョンの再生成という仕様は、Moria-*bandの本質的なゲーム性やシステム全体に深く根ざしたものなので、残念ながら小手先の改変では、それにともなっていろいろと重大な弊害が出てしまうことは避けられないと思われる。
実際、TOMEのpermanent_levelsオプションをONにすると、同じvaultを何度も攻略できてしまったりするようだ。(これは、「地形の生成や保存」と、「モンスターやアイテムの生成や保存」に関する仕様とゲームバランスに関する本質的な問題。)
やはり「使い捨てダンジョン」の問題は、オプションを一個追加するといったやり方ではなく、もっとずっと本質的なやり方で解決する必要があるのだ。
ではどうすれば良いのか
以下に書く内容は、新ゲームシステムの構想(妄想)に分類すべき内容なので、いずれ違う記事でより詳しく扱いたい。
- 一度探索したフロアは、少なくとも地形については、その状態が非常に長期間にわたって(あるいは永遠に)保存されるべきだ。
- 一度攻略されたダンジョンのモンスターやアイテムは、もし再び生成されるならば、比較的長い時間の経過とともに、自然に増加してゆく形をとるべきだ。(そもそも再生成しなくても良いと思うが。)
- プレイヤーキャラクターにアイテム獲得や能力向上の機会を多く(あるいは無限に)与えるために、世界内に非常に多くの(あるいは無限の)数のダンジョンを用意すべきだ。それらのダンジョンの位置や名前や特徴もランダムに決まるのであれば、より楽しい。
- むろん、ランダム生成される意味があるくらい、それぞれのダンジョンが、際立った個性と興味深さとを備えていなければならない。これが達成できないと、ルナティックドーンになってしまうので悲惨だ(アートディンクさんごめんなさい)。