*bandにおけるランダム要素と固定要素

TRPGにはサイコロが必需品だし、どんなコンピュータRPGでも、少なくとも戦闘部分の命中判定やダメージ決定には必ず乱数の要素が含まれているはずだ(と思う)。Roguelikeが独特なのは、ダンジョン地形の生成、モンスターの配置、アイテムの配置、そしてバリアントによってはアイテムの性能にまで、ランダム性が作用するという点である。

そしてこのランダム性こそがRoguelikeの最大の魅力の一つであることは、異論のない所だと思う。もっとも*bandのようにプレイヤーが恣意的にダンジョンの再生成を繰り返せる仕様だと、ダンジョンの存在感が薄くなるし、スカムが有力なプレイ戦略になってしまう、という問題について別の記事で指摘した。しかしそれは「ダンジョンのランダム生成」という仕様自体の是非とは別の話である。ダンジョンがランダム生成されることは、わくわくするようなゲーム体験をもたらす、非常に素晴らしいゲームシステムだ。

ランダム生成がうまく機能するためには、ランダムの質が重要

まぎらわしい言葉遣いだが、上の行で言うランダムの質というのは、擬似乱数の品質とかそういう意味ではない。そうではなく、「何かをランダムに生成するアルゴリズム」というのは、良くできていれば、そのアルゴリズムの作者自身にとってすら驚きと喜びをもたらすような興味深い結果を創造してくれるものだが、出来が悪ければ、誰にとっても興ざめな、いかにもテキトーにでっち上げたような結果しか吐き出してくれないものだ、ということを言いたいのだ。

例えば*bandの迷宮生成アルゴリズムがどれほど優れているか、気づかないだろうか? この迷宮の質の高さがあってこそ、*bandは戦闘を主体とするダンジョンシミュレーターとして成立することができているのだと私は思う。
部屋の大きさや形、配置、入り組んだ迷路部分と単純な部分との面積割合、モンスターやアイテムの配置密度とその偏り。そしてアリーナフロアや非常に小さいフロア、水辺フロア、森林フロア、城、洞窟、山などのヴァリエーション。さらに、nest、pit、vaultなどのレアなパターン。どれを取っても絶妙と言うほかない。
むろん、部屋の大きさや形のヴァリエーションをもっと増やしてもらいたいとか、退屈な階が生成される割合を減らしてもらいたいとか、なんらかの不満に基づいた拡張や改善の要求はいくらでも挙げることができるだろう。しかし、*bandの迷宮生成アルゴリズムの出来がもっと本質的に悪かったとしたら、我々がどんなプレイ体験をすることになったか、想像してみたことはありますか?

  • メリハリがなくうっとうしいだけの入り組んだ迷路の中をひたすら歩き回って、16平方マスに1体程度の割合(笑)で均一に配置されたモンスターを倒し、アイテムを拾うゲーム。
  • モンスターとアイテムが詰まったランダムな面積(笑)の長方形の部屋を制圧し、廊下を歩いて次の長方形の部屋へと移動することを繰り返すゲーム。

こんなゲームをやらされるぐらいなら、曲がりなりにもデザイナーが知恵を絞って考えた作り付けの固定ダンジョンを攻略した方が100倍マシである。これは何もダンジョンの生成に限ったことではないはずで、ゲーム体験に関する一般論として、

出来の良いランダム生成>>>(越えられない壁)>>>出来の良い作り付け>>>出来の悪い作り付け>>>>>(越えられない壁)>>>>>出来の悪いランダム生成

という序列が成り立つものと思われる。繰り返すが、出来の良いランダム生成アルゴリズムは、そのアルゴリズムの作者すら想像もできなかったような、喜びと驚きに満ちた結果を生み出してくれるものなのだ。

固定要素の功罪

.*bandは優れたランダム迷宮生成システムを持つとは言え、それ以外の多くの要素は作り付けの固定のものである。ここでは*bandに出てくる固定要素について、主に変愚蛮怒を念頭に置きながら、その功罪と、問題があるとしたら改善の方向性とを考えてみたい。

(1)街
街の名前、場所、構造、施設はすべて固定である。町の名前や場所や構造は、もしゲームごとにランダムに生成されるとしたら、面倒だけど楽しいかもね、という程度でゲーム性にあまり大きな影響はないが、街の施設については、各種の店、ギルド、家、ブラックマーケット、モリバントのトランプ魔術の塔、ズルのカオスの塔(突然変異の治療)、ズルの自然魔術の塔(平衡化の儀式)など、ゲームに大きな影響を与えるものが多い。

変愚蛮怒では特別な施設以外はすべての街に同じようにそろっているのだが、しかし店の商品には在庫数の概念があって一時的な品切れが発生しうるため、例えば「致命傷の薬」を補充するために複数の街を回らなければいけなかったりすることはある。しかし、$500の金を払えば街の間の移動は一瞬でできるので、よほど序盤でもない限り、街ごとの店の在庫状態は、多少の面倒を生むだけで、あまりゲームに実質的な影響を与えはしない。このように店の在庫については街ごとに別管理しているにも関わらず、「我が家」に置いてあるアイテムや「博物館」の展示品は、なぜか各街の間で共有される仕様になっており、正直、街の施設について変愚蛮怒がどういう方向性を目指しているのか、はっきりしない感がある。
これはモリバントやズルの特殊施設についても同様で、ズルへ行くのには$500の瞬間移動も街移動の魔法も使えず、歩いていかなければいけないのは確かに面倒だが、ではそれが突然変異治療の深刻な障害になるかと言えば、別にそんなこともなく、これについても正直ゲームプレイの面からはあまり意味のない仕様になっている。街の個性化あるいは雰囲気作りという面からは、まあ悪くはないかという程度だろう。
また、ブラックマーケットを利用したスカムはひどくゲームをつまらなくするが、たいていの人はそんなことはやらないと思うし、やらなければ別に害があるわけではないので、別に深刻な問題ではないだろう。むろんこのスカムは封じるべきものではあると思うが。

街の固定要素についてまとめると、現状の変愚蛮怒の仕様は可もなく不可もない。雰囲気を重視して街ごとの個性といったものを打ち出そうとするならば、それがプレイの利便性をどの程度損なうのかを良く見極める必要がある。プレイの利便性を大きく損なってでも町の個性化を優先するのであれば(たとえば、この街には薬を売る店がないし、違う街に簡単に移動する手段もない、とかいうような状況を作るのであれば)、それが単なる嫌がらせあるいはイメージ先行デザインに終わらないように、ゲーム全体のシステムや志向性を設計する必要があるだろう。そしてそれは少なくとも、今の*bandとはだいぶ異なったデザインになると思う。

(2)ダンジョン
ダンジョンの中身は自動生成されるが、ダンジョンの名前と場所と特徴は固定である。このおかげで「反攻スカム」や「龍窟スカム」という味気ない行為が可能になってしまい、しかもそれが極めて有力なプレイ戦略になってしまっている。だから私はダンジョンの位置と特徴はランダム化すべきだと考える。例えば、龍窟のような都合の良いダンジョンは、どこにあるかわからないし、この世界には存在しないかもしれない、という風に。
反攻スカムや龍窟スカムができないことにもし問題があるとしたら、その問題をこそなくすべきである。要は、反攻スカムや龍窟スカムをやるか、退屈な城30Fを延々と探索するか、という楽しくない二者択一から脱却したいのだ。

またこれは街についても言えることだが、TOMEでは「古森」、「塚山丘陵」、「ゴンドリン」、「ミナス・アノール」、「ロスロリエン」、「アングバンド」など、街やダンジョンの名前が、それぞれの場所や特徴にふさわしいミドルアースの地名から取られている。というか本当は順序が逆で、ミドルアースの地理に基づいてTOMEの世界がデザインされているわけだ。この路線は明らかに「ダンジョンや街のランダム生成」というアイディアとは両立しないので、別の道を歩むしかないですね。どちらが面白いかは、、、まあ好みによるかな。「ランダムの質」さえ高ければ、ランダムの方が面白いと私は思うけどね。

(3)ユニークモンスター
ユニークモンスターの名前とスペックは、すべて固定である。まあこれは、何代にもわたる@の死を積み重ねながらモンスターの思い出を蓄積していく、という*bandのゲーム性の根幹に関わる部分なので、少なくとも*bandの仕様としては良しとしよう。固定のユニークモンスターは決まりきっていてつまらないから、廃止して全部ランダムにしようと言うならば、それはもはや*bandではない別のゲームである。本当は、例によって「ランダムの質」さえ良ければそっちの方が面白いと私は思うのだが。まあ*bandの枠内に留まるにしても、固定のユニークモンスターの他にさらに「ランダムユニークモンスター」なんていうのがいても面白いかもしれない。

また、私がユニークモンスターについてさらに問題だと思うのは、変愚蛮怒では多くのユニークモンスターが、特定のユニークアイテムをあまり低くない確率で落とすことである。特に、★進化する銃『クリムゾン』、★狂気の夢想家ブランドのライト・クロスボウ、★インカヌスのローブ、★真世界アンバーの金の冠、★審判の宝石などは、プレイをパターン化させるというデメリットが大きいと思う。要するに、アーチャーやレンジャー以外の終盤って、たいていブランド弓かクリムゾンを装備してませんか?ってことです。これは全然Roguelike的ではないし、Roguelike的でなくても別に良いんだけど、何よりあまり面白くないと思う。
むろん、ユニークモンスターがそれに関係するアーティファクトを落とすということが、雰囲気作りに貢献していることは間違いないので、この要素をなくしてしまうのは惜しい。しかし、それが実現できるかどうかはともかくとして、ランダムな結果をもたらすアルゴリズムによって、人間の作為が可能である以上に素晴らしい結果を生み出す、という方向性こそが、Roguelikeそして*bandの系譜に連なるゲームが誇りを持って歩むべき道なのではないか。

(4)アーティファクト
固定アーティファクトの功罪については、上でユニークモンスターについて述べたこととほぼ同じである。固定アーティファクトを全廃してすべてランダム化するとしたら、それはもはや*bandではなくなるだろう。ランダム性が大好きな私でさえ、★ロングソード『リンギル』の解説に「かつてモルゴスは期せずしてこの剣に対峙し深い傷を刻み込まれた。彼はこの剣の力を再び思い知ることになるだろう」と書いてあるのを読むと、胸が熱くなってくる。

だが、「最終装備」として完全に定番化してしまっている固定アーティファクトの数々があることを思うと、やはりRoguelikeの系譜に連なるゲームが進むべき方向はそちらではないはず、という思いはぬぐい切れない。ランダムアーティファクトのみによって、固定アーティファクトにも劣らないだけの歴史と感慨とをプレイヤーに感じさせることは本当にできないのだろうか?(これは反語表現ではなく、本当に私にも答えが見えていない疑問文です。)

(5)クエス
大部分の方に同意していただけるものと思うが、私は変愚蛮怒の序盤をプレイしている時にはゲームで遊んでいる気がまったくしない。では何をしている気がするのかというと、「作業」である。

盗賊クエスト、ワーグクエスト、オーククエスト、下水道、破滅のクエスト1、柳じじい、ダークエルフの王、ミミックエスト、テングとデスソード。

この間の楽しみといえば、全耐性かエルフでも落ちてないかなあ、とか★か☆でも落ちてないかなあ、という程度であって、何から何まで型にはまり切っている。で、ようやく序盤のルーチンを終えてスピードの薬がたまったら、次に何をするかというと、「ログルス使い」をパスして「宝物庫」からつらぬき丸を持ち逃げですか? その次は「塔」スカムですか? そしていよいよ「クローン地獄」ですか? ランダム配置モンスターが事故っていてクローン地獄の達成に失敗したら、Qy@ですか?

やれやれだ。Roguelikeとは、そして*bandとは、もっとはるかに自由なゲームだったはずだし、そうでなければならない。
内容と報酬が固定されたクエストは、絶対になくすべきだ。私としては、何もクエストシステムを全否定したいわけではなく、クエストの内容と報酬とが決まっていることによって、プレイがひどくパターン化されてしまうこと(かなり具体的に細かいところまで予測可能になってしまうこと)が問題だと思っているだけなのだ。ランダムクエストはそれなりに面白い(クエスト内容にもっとヴァリエーションが豊富ならばより良いが)と思うし、固定クエストについても、撤退が許されないがゆえに、*bandでは珍しいプレッシャーというか切迫感を感じることができるという点については、高く評価している。
しかし、★つらぬき丸や★シヴァの化身の軟革ブーツがああいう形で手に入ってしまい、それが標準みたいになってしまうのは絶対に健全な姿ではないし、健全でなくても別に良いんだけど、何より面白くない。わくわく感がないのだ。