Roguelikeの中の*band

「蓄積を中心とするゲーム」と「工夫を中心とするゲーム」

JNetHacker's BibleBeolineliedなどの有名サイトの中ですでに指摘されていることだが、*bandのゲーム性は、いくつかの重要な仕様のせいで、Roguelike本流のゲーム性と大きく異なったものになっている。

  • *bandでは「ダンジョンの外の世界」が存在し、ダンジョンから出るたびに、同一ゲーム内であるにも関わらず、何度でもダンジョンが再生成される。
  • *bandでは、プレイヤーがミスをしない限り食料難になることがない。よってプレイヤーは、「飢えないうちにゲームを進めなければならない」という時間的制約から解放され、前進を強制されることがない。したがってプレイヤーは、ゲームの最終目的を達成するための準備に、好きなだけの時間を費やすことができる。
  • 上記二点の結果、*bandではゲーム終了までにプレイヤーキャラクターが手にし得る資源の量に、制限がない。
  • その結果、*bandは能力値や装備品や消耗品の「蓄積」を中心とするゲームになっている。

.*band専門のローグライカーは、上のような仕様が当たり前だと思うかも知れないが、こういった特徴は、Roguelikeの本流とされるRogue-Hack-NetHackの系列には、当てはまらないものだ。これらの、停滞を許されず、常に前進を強いられ、プレイヤーキャラクターが入手できる資源の量が限られているRoguelike本流ゲームのゲーム性を、あえて変愚蛮怒用語で説明してみるならば、例えば「クローン地獄」や「古い城」といった重要な固定クエストや鉄獄のランダムクエストに、うっかり耐性不足、レベル不足、消耗品不足などの状態で突入してしまい、それでも何とかあらゆる手段を駆使してクエストを達成しようと工夫し、あがき、暴れまわる、そんなシチュエーションで感じる緊張と興奮がそれに近いと言えるだろう。
.*bandでは、準備をよく整えて不利な状況を作らないということが大体において可能であり、それを確実に実行することがゲームのポイントであるのに対して、Roguelike本流のゲームにおいては、あり合わせの不十分な手段を駆使して、工夫によって困難を打開することがゲームのポイントになる。

味気ない蓄積行為の象徴としての「スカム」

このようなゲーム性の違いを取り上げて、「*bandのゲーム性はRoguelike本流のそれよりも劣っている」という風に言うことも、あるいはできるかもしれない。実際たしかに、*band固有の仕様のせいでRoguelike本流よりもゲームとして悪くなっている点はあるだろう。
例えば、ダンジョンを繰り返し出入りすることによって、ランダム生成される迷宮をいくらでも「使い捨て」にできることを利用した「スカム」行為は、本当に味気ない。特に変愚蛮怒の反攻、龍窟、塔、毒針などの組み合わせ技を使ったプレイは、なんとも言えず無味乾燥なものだ。(それからついでに言うと、これは私だけのこだわりかもしれないが、なぜダンジョンを出て入っただけでダンジョンの構造が必ず変わっているのかをゲーム内の論理で納得できないため、興ざめ感を覚えてしまう。)
スカム行動をしている時のプレイは、極端な言い方をすれば、自分の気に入った目が出るまでサイコロを振り続けるような作業、あるいは、獲得の巻物を手に入れた時点でセーブファイルのバックアップを作り、気に入ったアイテムが降ってくるまでロードを繰り返すような作業に近い。そしてこのようなプレイスタイルは、*bandの本質的な仕様に深く根ざしたものなのだ。

(また、悪口ついでに言ってしまうと、Zangband系がRoguelike本流のNethackと共有している悪い点もあると思う。それは、必ず存在する固定クエストとその報酬によって、プレイがパターン化されてしまうということだ。)

それでも*bandの方向性は面白い

なんだかんだと*bandの悪口を述べてきたが、しかし私がここで強く主張したいのは、「アイテムや能力値の蓄積を主眼とするゲーム」であるということ自体は、決して悪いことではないし、つまらないゲームであることを意味しない、ということだ。
実際私も、キャラを大事に鍛え、貴重なアイテムを収集することが大好きだし、他にもこういうプレイスタイルが好きな人は、間違いなくたくさんいる。(私が勤めている会社の同僚には、昔Wizardryで延々地下10階を回ってレベル600まで上げたという人がいる。)
さらにはっきり言ってしまえば、「ゲーム開始時に決められたダンジョン構造の中で、限られた資源を駆使して、工夫しつつ何とか目的を達成する」というRoguelike本流のゲーム性よりも、「無限のヴァリエーションを持つ迷宮を利用して、最終目的を達成するために十分な物資と能力を獲得する」という*bandの堅実なゲーム性を好むというプレイヤーの方が、世の中には多いのではないだろうか。
もしこの推測が当たっているとしたら、歴史的に他に類を見ない独特のゲーム性を持つのは本来のRoguelikeだとしても、より平凡であるがゆえに一般受けするゲーム性を持っているのは*bandだということになる。

いま「平凡」などという言葉を使ってしまったが、全身の装備を★や☆で固めて、「*破壊*」や「抹殺」を危険回避手段として連発し、「体力回復」を治療方法として常用し、「啓蒙」を当たり前に使って探索しても、それでもなお苦戦を強いられる*bandの終盤の過酷で凄惨で熾烈な戦闘は、「普通のRPGと同じ路線の蓄積ゲーム」と片付けてしまうにはあまりにも面白すぎる。変愚蛮怒は「ドラゴンボール全42巻」に例えられることがあるが、実にうまい比喩だと思う。そして、こういうすさまじくインフレ化した戦闘の楽しさは、プレイヤーキャラクター側での「無限の蓄積」が可能だからこそ実現できるものなのだ。

また、きわめて緻密な戦闘シミュレーション、ダンジョン生成アルゴリズムの質の高さ、桁違いの数のユニークモンスターやアーティファクトなど、Roguelike本来の面白さを正常に発展させた部分においても、*bandが非常に優れたゲームであることは間違いない。

そこで新ゲームを妄想しよう

まとめると、*bandはRoguelike本流と比べれば異端である。そのせいでゲームとしての面白さが損なわれている部分もたしかにあるが、それ以上に面白くなっている部分が大きい。このような*band系ゲームの面白さを死ぬほど発展させ、良くない点を排除した新たなゲームシステムを構想(妄想)し、あわよくば実装してしまおうというのが、私の目標である。
その過程として、既存のRoguelikeゲーム(*bandに限らず、NetHack系やOmega、Larn、ADOMなどの孤立系も含む)やその他のゲームに関する考察と、あるべき新ゲームに関する妄想や実装の一部を、これからここに書き連ねていきたい。